粗大ゴミなら曜日


 俺は弟に恋をしている。
兄弟愛とかお互いへの依存とか外界への拒絶とか、とかく云い訳にだけは事欠かなかったので俺はこのぐしゃぐしゃとした感情を握りつぶしてごみ箱に入れてさらにガムテープで零れないように密封することだって可能だった。むしろその方が弟にとっては幸いだったのではないかとも思う。
俺の可哀相な弟、この広い世界でたった一人俺が家族として愛してきた弟。かれはこれからはもっと可哀相な人間にならざるを得ない、実の兄に恋されてしまった可哀相な可哀相な弟に。ああ何て可哀相なんだろう、勿論全て兄の俺が悪い。
「ロロ」
シャーリーやらリヴァルやらと会話中の弟に声を掛ける。
かれらは誰がどう見ても話をしている途中だし、それくらい俺だって先程からずっと眺めていたのだから解らないはずがない。
俺の声に反応したロロが、ぱっとこちらに顔を向けてから小首を傾げる。視線を合わせると弟は心得たように小さく頷いて、シャーリーとリヴァルに声を掛けた。少し距離があったからはっきりとは聴こえないが、俺には弟が何を云っているか手に取るように解る。ごめん、兄さんが呼んでるみたいだ。
「……なに、兄さん?」
「ああ済まない、邪魔したか?」
「ううん全然」
何のためらいもなく駆け寄ってきた弟が微笑むのにつられるようにして俺も笑う。全然だって? 邪魔になっているに決まっている、何しろわざわざそうなるように見計らってこれまで黙って本を読んでいたのだ。
最初はシャーリーもリヴァルも自分に話しかけようとしてきていたけれども、本に集中しているからと断っておいてある。だから彼らは自分の邪魔にならないように少し離れたところで雑談をしていた。それから会話が一際盛り上がっているところでロロに声を掛けたのは、弟が先輩である彼らより兄の俺を優先するのが見たいがため。それだけだ。たったそれだけのためにこんな幼稚な真似をしている俺はきっとただの馬鹿でしかない。これは前々から自覚していることだが、俺の妬心は人一倍強い。
なんでもないような顔でぱたりと手に持った本を閉じ、見上げる弟に視線を流す。
「いや、この間のレポート課題はどうしたのかと思ってな」
「ああ、あれなら一応下書きは終わらせたんだけど、まだちょっとしっくりこなくて。もう少し書き直してみようか迷ってるとこ」
「そうか。まだかかりそうなのか?」
「うーん、もうちょっと……。あ、よかったら後で兄さんにも目を通してもらいたいんだけど、いいかな」
「当然だろ」
 遠慮がちな仕草でこちらを見上げるようにする弟が可愛くてならない。兄としてでもいい、ロロに頼りにされ、信頼されているということが俺にはひとつひとつ嬉しい。
弟に頼られていることも、かれが手助けが必要になるまでは独力で努力しようとしていることも嬉しくて、俺は微笑んで弟の頭をそっと撫でた。可愛い、かわいい俺の弟。俺はこの弟に恋をしている。好きで好きでたまらない。 目の前でロロが微笑んでいるので、遠くで呆れたように肩をすくめるリヴァルの仕草なんて俺の視界に入るはずなどがなかった。

つづく


(01.25.09)


戻る